ADVANCED DENTISTRY
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歯を残すための治療方法
目次
- セラミックを使った歯冠修復治療
- 限局矯正を利用した治療①「アップライト」
- 限局矯正を利用した治療②「挺出」
- 歯周組織再生療法
セラミック系材料を使用した歯冠補綴治療
日本の保険診療では、従来から使用していた12%金銀パラジウム合金(いわゆる銀歯)のほか、高強度の硬質レジンブロックなども使用できるようになっています(2019年5月現在)。しかしながら歯科用セラミック系材料は今のところ歯科の保険診療には収載されていません。そのためセラミックによる歯冠修復治療はすべて自費診療になっています。
口腔内は高温多湿で、ヒトの体重程度の咬合力が加わるような材料にとって過酷な環境です。長期に安定した歯の修復治療を行うにあたって、使用する材料の選択はとても重要な要素です。歯科用材料も日々進歩していて、新しい素材が使用されるようになってきています。特に歯科用セラミックは周辺技術の進歩とともに新しい素材が開発され、口腔内においても長期にわたって安定できるよう改良されています。セラミックは虫歯や歯周病を引き起こす細菌叢であるバイオフィルムも、他の材料(プラスチックや金属系)に比べ付着しにくい特徴も持っています。また最も大きな特徴としては、天然歯を模倣した修復物を作製でき審美性に優れていることです。歯科の治療の一番の目的は患者さんのQOL(Quality of Life)を向上することです。欠けてしまったり、失ってしまった歯は治癒することはできません。しかし元の状態にできるだけ近い状態に戻してあげて、安定して使用できるように修復することは患者さんの機能的にも心理的にも大切なことだと考えています。そのため治療が必要な患者さんには、現時点で最良と考えられるセラミック修復をお勧めしています。
セラミックレイアリングタイプ(Layered Restoration)
レイアリング(Layered)
セラミック(築盛用陶材)を積層して作製する方法です。高強度のフレーム(金属またはジルコニア)とエナメル質に似た築盛用陶材(セラミック)の2層構造になっています。技術の高い歯科技工士による多色のセラミック築盛、内部ステインなどの技法により、天然歯に近い色調と質感を作り出していきます。高度な審美性が求められる歯に対しての第一選択になるクラウンです。
- ¥120,000 (税別)
セラミックレイヤードジルコニアクラウンは審美性を最も重視する場合には第一選択となるクラウンです。特に高度な審美性を要求される前歯の1歯修復では最も適しています。内部のフレームを金属の代わりにCAD/CAMで加工した酸化ジルコニウム(ZiO2)を用いています。そのため内部への透過光が遮断されず、天然歯に近い発色を再現することが可能です。高強度ジルコニアを用いればブリッジも作製可能です。ジルコニアフレームに築盛用陶材をのせて作製しているため審美性は非常に高いですが、後述する陶材焼付冠(PFMクラウン)と比較すると、築盛用陶材の破損が若干高く発生します。咬合に問題のある場合には注意が必要です。金属を使用していないため金属アレルギーの方にも使用可能です。
- ¥100,000(税別)
陶材焼付冠(PFMクラウン・メタルボンドクラウン)は、最も信頼性の高いクラウンのひとつです。金属(セミプレシャス/Co-Cr合金)のフレームは適合と強度に優れているため、前歯・臼歯と場所を選びません。またメタルフレーム(Co-Cr合金)をCAD/CAMによって作製するインプラント上部構造のロングスパンブリッジも可能です。築盛用陶材を使用しているため、天然歯を模倣したクラウンが作製できます。金属フレームが内部への透過光を遮断するため、周囲歯肉が暗くなることが欠点です。また一部の金属アレルギーの既往がある患者さんに使用できない場合があります。
モノリシックタイプ(Monolithic Restoration)
モノリシック(Monolithic)
単一の材料で作る方法です。材料によって、PRESS(圧縮加熱)とCAD/CAM(切削加工)の作製方法があります。高精度・高強度の”一枚岩”構造の修復物が作製できます。ジルコニアディスクからCAD/CAMミリングマシンによりクラウンの形に削りだします。ファーネス(加熱炉)でシンタリング(焼結)を行い、模型上で調整を行います。調整後、表面にステイニング(彩色)を行い自然感を表現します。
- ノンステイン¥85,000(税別)
- ステイン ¥10,000(税別)
プレスセラミックジャケットクラウンは、二ケイ酸リチウム(Lithium disilicate)を主成分としたセラミックを使用しています(IPS e.max)。材料となるガラスセラミックのインゴット(塊)をファーネス(圧縮加熱炉)にて溶融・加圧し歯の鋳型に流し込むことで高い精度と強度を持つ修復物(クラウン)を作製します。修復物の表面にステイニング(染色)を行い自然感を表現します。歯科用セラミックの中では、高い透明感と築盛用陶材よりも高い強度を持つ素材です。ただしレイアリングではなくステイニングによる染色のため、複雑な特徴を持つ歯の色彩や質感の再現には向きません。臼歯部やブリッジに耐えうる強度(ISO6872規格で500MPaの曲げ強度が必要)はありませんので、主に前歯部・小臼歯部の修復に適しています。
- ノンステイン¥85,000(税別)
- ステイン ¥10,000(税別)
ジルコニアフルカントゥアクラウン(フルジルコニアクラウン)は酸化ジルコニウム(Zirconium dioxide)のブロックをCAD/CAMミリングマシンによって削り出しファーネス(加熱炉)でシンタリング(焼結)したクラウンです。歯科用セラミック系材料では、最も高い曲げ強度(558~1125MPa)を持ちます。咬合に問題があり築盛用陶材(曲げ強度80~100MPa)の破折の可能性が高い場合には、レイアリングをしないフルジルコニアを選択することが多くなってきています。また大臼歯部のインプラント上部構造のように咬合負担が大きい部分に適していると考えられます。前述の二ケイ酸リチウムよりも強度は高いですが、透明感は低くなっているのが特徴です。主に大臼歯の修復や、ブリッジ修復に適しています。
長期に安定したセラミック修復を行うために
限局矯正(部分矯正)を利用した治療 ①「アップライト」
…限局矯正LOT:Limited Orthodontic Treatment …部分矯正MTM:Minor Tooth Movement
矯正治療は歯並びを治す治療ですが、併用することで今まで抜歯しか方法がなかった歯を抜かずに治療できる場合があります。
限局矯正(部分矯正)治療の特徴
歯並びは顎骨の大きさ、噛み合わせによって決まってきます。矯正治療では全顎(上下の歯すべて)の歯を動かして治療を進めることが一般的です。しかしながら1~2本程度の歯を移動させる方法として、部分矯正(MTM: Minor Tooth Movoment)または限局矯正(LOT:Limited Orthodontic Treatment)があります。
歯は適切な矯正力をかけることで移動させることができます。矯正治療はワイヤーやゴム(エラスティック)、スプリングなどの弾性力を利用し歯を並べていきます。すべての歯を動かす全顎矯正(COT:Comprehensive Orthodontic Treatment)では、矯正装置を全顎の歯に装着し、ワイヤーやゴムで結ばれたそれぞれの歯同士がお互い綱引きをするように引っ張り合って適正な位置へ移動していきます。
一方で限局矯正(LOT)は、特定の1~2歯のみを移動する治療です。全体の歯列の移動ができる全顎矯正は自由度が高く歯も動かしやすいのですが、限局矯正は位置や装置に制限が多く、比較的難しいケースもあります。歯を動かすためには固定源(アンカー)となる歯が必要なのですが、限局矯正の場合、部分的な装置となるために固定源の歯が動いてしまう(アンカーロス)ことがあります。そのため歯科矯正用アンカースクリュー(またはTAD: Temporary Anchorage Devicesともいう)を併用した限局矯正を行うことがあります。
歯の傾斜に対する治療
あごの大きさが歯列よりも相対的に小さい場合に、歯が並びきらずにデコボコして生えてしまうことがあります(叢生:Crowding)。そういった歯列不正の状態の一つに歯の傾斜があります。写真のケースでは、下顎の(前から)7番目の歯が並びきらずに手前に倒れてしまっています。歯が倒れこんだ下にはスペースができてしまい清掃不良になりやすいことから、むし歯や歯周疾患が発症しやすくなります。歯の位置が変わらない限り、虫歯の治療をしても完全には治すことができないため、抜歯になる可能性が高い状態です。このような場合には矯正治療によって、歯のアップライト(整直:Uprighting)を行うことで改善を図ります。
矯正用アンカースクリューを使用した限局矯正治療(アップライト)
アップライト(Uprighting:整直)とは、傾斜し倒れて生えている歯を矯正装置使ってまっすぐに起こす処置を指します。一歯のみのアップライトであれば限局矯正治療の適応です。限局矯正の場合は、前方の歯を3歯ほど固定源(Anchorage)として矯正装置を装着し、アップライトスプリングと呼ばれる弾性ワイヤーの力で倒れている歯を動かしていきます。大きい歯(大臼歯)を動かすときには、固定源の歯が動いてしまうアンカーロスを起こす可能性があります。これを防ぐには固定源の歯の本数を増やす(矯正装置をたくさんの歯につける)か矯正治療用アンカースクリュー(TAD:Temporary Anchorage Devices)による固定を増やす(加強固定)ことになります。今回のケースではアンカースクリューを一か所装着し、固定源を強くすることで限局矯正を行いました。
利点
- 抜歯をしなくてすんだこと
- 通常の限局矯正の約半分の治療期間で終了(アンカースクリュー)
- 固定源の歯が動いてしまう(アンカーロス)ことがほぼない
欠点
- 矯正装置周囲の清掃が難しい
治療期間:(矯正治療)3ヶ月,(修復治療)1カ月
治療期間は個人差がありますので、部分矯正は通常6カ月程度かかります。
費用 :
- 診査(CT撮影・模型診査) : ¥30,000
- 部分矯正+アンカースクリュー1本 :¥100,000
- 歯冠修復(セラミックインレー) :¥50,000 合計 ¥180,000 (税別)
矯正用アンカースクリューを使用した限局矯正治療(アップライト)
Uprighting of the mesially impacted second mandibular molar using temporary anchorage device (TAD)
診査:下顎第2大臼歯が近心傾斜しており,同歯近心側歯肉縁下にカリエス発症.
治療:アンカースクリューを加強固定としてアップライトスプリング装着.2週に1度のスプリング調整を行い,3ヶ月でアップライト終了.う蝕除去,歯冠修復処置(セラミックインレー)を行った.
限局矯正を利用した治療 ②「挺出」+「歯冠延長術」
抜歯の基準
歯肉よりも下に虫歯がすすんでしまった場合は、抜歯の適応になります。
- 歯肉が覆い被さって、虫歯が完全にとりきれません。
- 残っている歯質が少ないと、強度不足のため歯冠補綴物(かぶせ)を支えることができません。
- 歯と歯肉のバランスが悪くなり歯肉に炎症がおこります。
- クラウンと歯質の境界の適合精度が悪くなり予後がよくありません。
以上の理由より、残念ながら抜歯を行うことになります。
しかし、このような歯でもいくつかの処置を行うことで、抜歯をせずに治療できる場合があります。
歯肉の下まですすんでしまった虫歯を治す治療ステップ
根の治療
歯根の中の汚れをとり、細菌が入らないようにしっかりつめる治療です。
歯質がほとんど残っていないため、そのままではしっかりした治療ができません。そのため、隔壁とよばれる仮の土台をつくります。治療のための足場のようなものです。
歯の挺出(矯正的挺出)
挺出(ていしゅつ)とは、ひっぱりあげることです。
歯肉の下に健全な歯質がある場合に、この部分を引き上げてきます。これには部分矯正治療を行います。場合によってはインプラントアンカーを利用する場合もあります。
おおよそ3ヶ月程度の期間がかかります。
歯冠延長術(歯周形成外科処置)
健全な歯質が引き上げられたら、歯根と歯肉、その下の骨の位置のバランスをとるために、歯周外科処置を行います。 患者様によっては、数日間、腫れることもありますが、抜歯よりも痛みは少ないと思います。
補綴治療(クラウン)
歯質が薄くなってしまうと、歯根が割れやすくなりますので、グラスファイバーを利用した土台で歯根を補強します。 歯肉の状態が改善するまでは、仮歯で経過観察をします。
噛み合わせ隣の歯との調和歯肉の状態すべてが回復したら最終的なクラウンを装着して終了です。
以下の場合、この治療ができません。
- 歯根にひび割れがある。または割れてしまっている。
- 残っている歯根が短い。
- 重度の歯周病などで支持組織が失われている。
- 重度の根尖性病変がある。
この治療の欠点
- 歯根が短い歯では、歯冠歯根比のバランスが崩れやすい(予後が悪い可能性)
- 残存歯質が薄い場合、将来、歯根破折のリスクが高い
治療期間と費用の概算例)上顎前歯1歯での治療の場合(自費診療)
- 感染根管治療
顕微鏡下根管治療(1根管)、X線診査 仮歯等 ¥20,000 - 部分矯正治療
矯正的挺出 ¥50,000 - 歯周外科治療
歯冠延長術 ¥10,000 - 補綴治療
ファイバーポスト、セラミッククラウン(PFM) ¥115,000 - 約6ヶ月前後
その他に診察料等がかかります ¥195,000(税別)