DENTURE
可撤式義歯(入れ歯・義歯)について
歯の欠損と口腔機能障害の改善のために
有床可撤式補綴装置としての「入れ歯の治療」
平成28年度の歯科疾患実態調査では、現在の日本人の平均喪失歯(抜いた歯)は50歳で2本以上、そこから少しずつ歯を失うペースが上がってきて、70歳で8.6本以上の歯が失われています。
歯を失うことは、噛む(咀嚼)・飲み込む(嚥下)・話す(発語)といった人が生活するうえで重要な機能を低下させ、また歯槽骨や歯肉といった周囲組織の喪失を伴うため、見た目の顔貌にも影響を及ぼします。
一般的に「入れ歯」と呼称される有床可撤式補綴装置の役割は、失った歯とそれに伴って生じた周囲組織(歯槽骨や歯肉)の欠如が原因で損なわれてしまった形態(歯や歯肉の単形)と機能(口腔機能)および外観(見た目)の回復・改善をすることです。
ここで言う「入れ歯の治療」とは単に失った歯の代わりに入れるものではなく、失った歯の形態を補うことで、機能的障害、審美的障害に対してアプローチしていく補綴診療の一部となります。
「有床可撤式補綴装置」
「入れ歯(義歯)」を専門的な単語で言い換えると「有床可撤式補綴装置」といいます。一つずつの単語を簡単に説明すると以下のようになります。
- 「有床」…人工の歯以外に歯肉粘膜を覆う義歯床部分(ピンク色の部分)があって
- 「可撤式」…取り外しを行うことができる
- 「補綴装置」…失った歯や歯肉の代わりに機能する装置。
「いれ歯」が担う治療のケースは補綴治療の中では最も幅広く、1本の歯の欠損から無歯顎(歯が全く無い)欠損、そして広範囲に歯槽骨が欠如した場合にも用いられます。他の補綴装置であるブリッジのように残存している歯を大きく削ることもなく、インプラント治療のように手術を必要とすることもないため、低侵襲の処置で治療が可能です。
また患者さんの要望や治療の目的に対応できる、「入れ歯」やその構成部品の種類は数多く存在します。ここではそのいくつかをご紹介します。
入れ歯の種類
入れ歯は、主に ①人工歯 ②義歯床 ③維持装置 の3つの構成要素でできています。
歯の欠損数による違い
入れ歯は、①自分の歯が残っている場合=部分入れ歯、②全ての歯がない、または歯根だけ残っている場合=総入れ歯 に分けられます。
部分入れ歯(局部床義歯)
自分の歯が残存している場合の、1歯~多数歯欠損に使用される義歯です。
総入れ歯との違いは「人工歯」と「床」以外のパーツがあることです。一般的な部分入れ歯は「クラスプ」と呼ばれる金属製のバネを自分の歯にかけて安定させます。また左右の両側をつなぐための「連結子」と呼ばれる金属製の板状のパーツがつくこともあります。
保険診療と自費診療の違いの一つに、これらのパーツの種類の差があります。自由診療では、クラスプ以外の維持装置(歯冠内・歯冠外アタッチメント)や、連結子の代わりにメタルプレートといわれる薄く強度の高いパーツを使用することができます。
総入れ歯(全部床義歯)
無歯顎(すべての歯がない)の場合に使用するのが総義歯(全部床義歯)です。「人工歯」と「床」で構成されています。総義歯を口腔内で安定させるには、口腔周囲筋と調和した義歯の形態と咬合(上下それぞれの噛みあわせ)が重要になります。
保険診療と自費診療での総義歯の形はほぼ一緒ですが、自費診療の場合は、より理想的な義歯の形態を作るための工程や、詳細なかみ合わせの診査が加わります。そのため長期的にも安定した使用感が得られます。また保険診療では「床」の部分はレジン(プラスチック)ですが、自由診療ではメタルプレートに置き換えることができます。メタルプレートはひずみがなく、薄く丈夫なため、快適な使用感と長期の安定性に優れています。
「義歯床」…使用材料について
入れ歯は、歯ぐきの上に載せて使用します。その部分を「義歯床(ぎししょう)」と呼び、入れ歯の構成要素の一つです。
レジン床
【保険診療】【自費診療】
「床」の部分はレジンと呼ばれるプラスチックで作られています。一般的には加熱重合型アクリルレジンが材料として使用されます。多くの義歯に使用されている材料です。修理や調整がしやすい材料ですが、一方で強度が低いため破折しやすい特徴もあります。この材料のみで義歯を作製する場合は、破折を防止するために一定の厚みを付与する必要があり、そのことが義歯装着時に違和感として感じられる場合があります。
金属床
【自費診療】
アクリルレジン以外の「床」の主要な部分を金属を用いて作製しています。金属部分はメタルプレートといわれ、歯肉粘膜にぴったり適合し、薄く仕上げることができます。材料による厚みの違和感を軽減するだけでなく、熱伝導に優れているため食べ物の温度を感じることができます。全部床義歯では特におすすめする形態の義歯になります。金属にはコバルトクロム合金(Co-Cr Alloy)、またはチタン(TiO2)を使用しています。
その他の材料を使用した義歯床
軟質裏装材
【保険診療(一部の条件あり)】【自費診療】
硬質材料(レジン)で作製した通常の入れ歯では、食べる時の痛みが抑えられない患者さんがいます。これは歯槽骨や顎骨の吸収が大きかったり、口腔粘膜が薄い場合に起こることがあります。その場合には軟質裏装材料(やわらかい裏打ち)を入れ歯の内側に貼り付ける方法があります。この軟質材料にはアクリル系とシリコン系があり、症状によって選択します。長期使用によって材料が劣化することがあります。また顎堤吸収による変化がある場合には、新しく裏層(はりかえ)しなおす必要があります。
*なお保険診療では、顎堤吸収が著しく、通常の義歯装着では疼痛等の症状の改善が困難な下顎総義歯の患者さんの治療のみ使用することができます。
ノンクラスプデンチャー
【自費診療】
ノンクラスプデンチャーは金属の「クラスプ」を使用せずに入れ歯を維持(安定)することができる部分入れ歯です。通常の入れ歯で使用しているアクリル樹脂よりもしなやかで軟かいポリアミド樹脂を使用しています。写真のように義歯床すべてをこの樹脂で作製することもできますが、金属の「クラスプ」を見えないようにしたい部分のみに維持装置として使用し、金属床と合わせることもあります。
比較的容易に作製することができるので、多くのクリニックで治療が可能です。材料の劣化が早いため、3年以上の使用では新しく作る必要があります。
「維持装置」…クラスプ・アタッチメント
入れ歯の構成要素の一つである「維持装置」は、部分入れ歯を安定させるパーツです。
クラスプ
【保険診療】【自費診療】クラスプは最も多く選択される維持装置の一つです。用途によっていくつかの形状に分かれます。コバルトクロム合金で作製されるものが一般的です。鉤歯(クラスプを支える歯)を大きく削ることもなく、維持力の調整を行いやすいことが利点です。一方で、前歯が鉤歯の場合はクラスプが見えやすいため審美的な問題が起こることがあります。
ノンクラスプ(樹脂クラスプ)
【自費診療】ノンクラスプデンチャーに使用されるポリアミド樹脂を使用した維持装置です。義歯床として使用する以外に、審美性が気になる部分に維持装置として金属床とコンビネーションで用いることができます。
歯冠外アタッチメント
【自費診療】維持装置を見せることなく審美的な装着と、リジット(しっかりした)な義歯の固定が可能な装置です。
歯冠外アタッチメントとは、義歯を支える歯にクラウンをかぶせる補綴治療を行い、そのクラウンの歯冠部にアタッチメント(凸部分)を付与した維持装置のことを言います。入れ歯の取り外しによって維持力が弱くなる場合には、義歯側の凹部分のインサートを交換することで簡単に修正できることも利点です。欠点となるのは、鈎歯となる歯の歯冠補綴治療(クラウンをかぶせる)が必要です。(通常2本以上)。また特殊な製作が必要なため、治療やメンテナンス等を受けることができるクリニックを探す必要があるかもしれません。当院ではmini-SGというシステムを使用しています。
アンカーアタッチメント
【自費診療】残った歯根に維持装置を取りつけ、義歯の維持を行う機能があるものをアンカーアタッチメントといいます。歯根のみしか残っていない歯でも、義歯の安定のために最後まで使用できることもメリットの一つです。アタッチメントは多様で、マグネットタイプやO-リングタイプなどがあり、製作も修理も比較的容易なため多くのクリニックで治療を受けることができます。欠点としてはアタッチメントを装着した歯がプラークで汚れやすいため、自身のプラークコントロールがとても大切になります。
また自分の歯ではなく、インプラントにも装着可能でインプラントオーバーデンチャー(IOD; Implant Overlay Denture)の維持装置としても使われています。
噛める入れ歯を作るために
機能を持たせた義歯形態
義歯(入れ歯)は見た目の回復以外に、「噛む」・「話す」という機能を持たせる必要があります。患者さんの顎関節の状態や噛み癖、あごの骨や粘膜(顎堤)がどれくらい残っているかなどで、入れ歯の治療の難しさは変わってきます。義歯は単に歯の形をしただけでは使えません。咀嚼や発話といった口腔機能を持たせた形をつくる必要があるためです。
一般的には「①口の中の型採り(印象採得)」→「②噛み合わせの確認(咬合採得)」→「③歯並びの確認・試し入れ(義歯試適)」→「④義歯装着」→「⑤調整」の順に進めていきますので、使えるようになるまでには約1か月~2か月ほどかかります。
かみ合わせが安定しない・顎の骨が大きく吸収しているような場合には、上で示した治療ステップに加えてより細かな診査や処置を行って作製していきます。こういった見えない部分の処置を丁寧に進めていくことが、機能する入れ歯を作るためには大切です。
いい義歯を作るには、自身の口腔粘膜や口腔周囲筋に調和した形態と咬合(かみあわせ)を作り出すことが重要です。
コピーデンチャーを使用した義歯作製
安定が悪くなった入れ歯がある場合、まずその形態を修正していきます。(写真①の白っぽい部分が修正した形態です)
食べたり、話したり、口を開けることで周囲の筋肉や粘膜の形は変化します。入れ歯の形は変化しませんので、顔や口のどんな動きに対しても安定するような入れ歯の形(辺縁形態)を作っていくことは最も重要です。実際に使用感を試してもらったうえで、問題がなければ義歯のコピーを作ります。(写真②)
粘膜にフィットし、噛み合わせの安定した義歯を作るため、コピーデンチャーを用いて型を取っていきます。(写真③)
良い入れ歯を作るためには、見えない部分にはなりますが丁寧な製作過程を踏んで作ることが大切です。
治療費用の概算について